モレなく・ダブりなく — コンサル思考の土台を身につける
MECEとは Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive の略。日本語では「モレなく・ダブりなく」。
コンサルタントが課題を整理したり、解決策を並べたりするとき、常に「この分類はMECEか?」と自問する。MECEでない分析は、「課題を見落とす(モレ)」か「同じ話を2回する(ダブり)」かのどちらかになる。
選択問題(Q11〜Q15)の正答数
ある会社が従業員を「正社員・非正規社員・派遣社員」の3種類に分類した。この分類はMECEか?
「派遣社員」は「非正規社員」のカテゴリに含まれるため、ダブりがある。正しくはパートタイム・アルバイト・派遣・契約社員などを横並びで分類するか、「正社員・非正社員(非正規)」の二分法にする。
損益計算書(PL)の費用を「売上原価・販売費及び一般管理費(販管費)」の2つに分類した。この分類はMECEか?
PLにおける費用の標準区分。「売上原価」と「販管費」は定義上互いに重複せず(独立)、合計で営業費用全体を網羅している(モレなし)。会計の標準フレームワーク自体がMECEに設計されている。
PMI(M&A後の統合プロセス)の課題を「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分類した。MECEか?
「ヒト・モノ・カネ・情報」は経営学における経営資源の古典的4分類。互いに重複せず、企業活動に必要なリソースを網羅している。PMIの場面でもほぼすべての統合課題はこの4つのどこかに属する。
市場を「国内市場・海外市場・アジア市場」の3つに分類した。何が問題か?
「アジア市場」は「海外市場」の中に含まれるため、ダブりがある。正しくは「国内・海外(非アジア)・海外(アジア)」か、「国内・海外」の2分法にした後でアジアを下位分類にするべき。
中小企業のDX推進を阻む要因として「①予算不足 ②人材不足 ③ノウハウ不足 ④経営者の意識不足」と整理した。このMECEに問題はあるか?
①②③は「リソース不足」という結果(症状)で、④「経営者の意識不足」はそれらの原因(根本)に当たる。原因と結果が同じ層に並んでいる。改善案:
• リソース系:予算・人材・ノウハウ不足
• マインド系:経営者の意識・優先度
…とレイヤーを分けるか、「内部要因・外部要因」で切り直す。
売上高をMECEに数式で分解せよ。
売上高 = 顧客数 × ___
「顧客数 × 顧客単価 = 売上高」は最もシンプルで強力なMECE分解。売上を増やすには「顧客を増やす」か「単価を上げる」かしかない。この2軸で施策を整理するだけで思考が劇的に整う。
営業利益をMECEに分解せよ。
営業利益 = 売上総利益(粗利)- ___
PLの基本構造。「粗利(売上 - 売上原価) - 販管費 = 営業利益」。この式はPMI後の統合先企業の業績分析に毎回使う。式を自動的に思い浮かべられるようになると分析スピードが上がる。
SaaSのチャーン(解約)をMECEに分解せよ。
解約顧客 = 自発的解約(不満による)+ ___
チャーンを「自発的」と「非自発的」に分けるのはSaaS業界の標準MECE。自発的解約への対策はプロダクト改善やCSだが、非自発的解約への対策は請求フロー改善や顧客の事業継続支援になる。対策が全く異なるため分類が重要。
SaaSのARR(年間経常収益)変化をMECEに分解せよ。4つの要素で表すこと。
ARR変化 = 新規獲得ARR − 解約ARR + ___ − ダウングレードARR
SaaS業界標準の「ARRウォーターフォール」分解。
新規 − 解約 + 拡張(アップグレード・追加ユーザー) − 縮小(ダウングレード) = ARR純増。
この4要素はMECEかつ網羅的。SaaS経営ダッシュボードで必ず追跡する指標。
営業パフォーマンスをMECEに数式で分解せよ。
月次成約売上 = アプローチ数 × 商談化率 × ___ × 平均単価
「アプローチ数 → 商談化 → 成約 → 単価」の営業ファネル。各ステップの転換率を掛け合わせて売上が決まる。この分解のどこが低いかを見れば、営業改善の打ち手が明確になる。
事業承継の方法をMECEに分類するなら、どれが最も適切か?
中小企業庁の公式分類に基づく。親族内承継・役員従業員承継・M&Aは互いに重複せず、日本で取りうる全ての事業承継形態を網羅している(廃業も選択肢として含める)。Aは「誰が承継するか」の視点だが、M&Aによる第三者が含まれず不十分。
M&A後のシナジー効果をMECEに分類するなら?
M&A実務での標準分類。コストシナジー(統合によるコスト削減)・売上シナジー(クロスセルや市場拡大)・財務シナジー(資本コスト低下・節税効果)は独立かつ網羅的。CやDは追加の切り口として有用だが単独では網羅性が低い。
中小企業の経営課題をMECEに整理する「切り口」として、どの考え方が最も正確か?
MECEの切り口は目的次第で変わる。「コスト削減策を整理したい」なら「固定費・変動費」が有効。「組織改革課題を整理したい」なら「ヒト・プロセス・文化」が有効。A〜Cはどれも状況次第では優れた切り口だが、常に最適ではない。大切なのは「なぜこの切り口を選んだか」を説明できること。
収益改善の打ち手をMECEで整理するとき、最も強力な切り口はどれか?
「利益 = 売上 − コスト」という利益の定義式に直結するため、AはMECEかつ数式的に証明可能。「売上を増やすか、コストを減らすか、両方か」という経営の本質を表している。B〜Dは有用な補助軸だが、利益改善の「網羅性」という意味ではAが最強。
コンサルタントが資料で「課題A・課題B・課題C・その他の課題」と整理した。「その他」があることはMECE的に問題か?
「その他」はモレを吸収するための便宜的な箱。小さければ許容されるが、大きくなると「実は主要な分類が抜けている」サイン。一般論として「その他が全体の10〜15%以上を占めたら分類を再設計せよ」と言われる。
ある中小食品メーカーの売上が前年比15%減少した。原因をMECEで整理せよ。(「内部要因・外部要因」の2軸を出発点に、それぞれ3〜4つ展開すること)
外部要因:
・市場縮小(その食品カテゴリの需要自体が落ちている)
・競合の新商品参入・価格競争激化
・原材料費高騰による小売側の棚見直し
・法規制変化(成分規制など)
内部要因:
・商品力の低下(味・パッケージの陳腐化)
・営業力の問題(取引先数の減少・営業員の定着率低下)
・製造コスト上昇による価格競争力の喪失
・物流・在庫管理の問題
M&A後に「新会社の生産性が上がらない」という問題が報告された。ヒト・モノ・カネ・情報の4軸でMECEに問題を整理せよ。
ヒト(組織・人材):役割・権限の不明確化 / キーパーソンの離職 / 文化の衝突によるモチベーション低下
モノ(業務・設備):業務プロセスの二重化・非効率 / 設備・ツールの未統合
カネ(財務):統合コストの予算超過 / 投資判断の遅れ(意思決定者不在)
情報(システム・データ):IT系のシステム未統合 / データ・ナレッジの移転未完了 / コミュニケーション手段の混乱
「PMI Managerの解約率が先月より増加した」という報告が入った。原因をMECEに3層で展開せよ(第1層→第2層→第3層)。
第1層:プロダクト起因 / 顧客起因 / 営業CS起因
第2層(プロダクト):機能不足 / バグ・障害 / UX悪化
第2層(顧客):PMI完了(利用終了) / 予算削減 / 担当者交代
第2層(営業CS):オンボーディング不足 / 継続フォロー不足 / 価値訴求の失敗
第3層(例:機能不足):ガントチャートの使い勝手 / AI提案精度 / レポート機能の弱さ
当社のPMIコンサル事業の「利益改善」を経営陣に提案する。MECEを使って施策を網羅的に整理し、最低8つの施策候補を挙げよ。
売上増加施策:
①コンサル顧客数を増やす(SaaSからのアップセル促進)
②月額単価の引き上げ(150万→200万への値上げ交渉)
③1案件あたりの契約期間を延ばす(12ヶ月→18ヶ月)
④リピート・紹介案件の獲得率向上
費用削減施策:
⑤コンサルタント1人あたりの案件数増加(生産性向上)
⑥定型業務のAI自動化(議事録・レポート生成)
⑦フリーランサー活用による変動費化
⑧交通費・出張費のオンライン化
【最終問題】「演繹的MECE」と「帰納的MECE」の違いを説明し、それぞれをコンサル業務のどの場面で使うか述べよ。
演繹的MECE:既存の理論・公式・フレームワークから出発してMECEな分類を作る。例:「売上=顧客数×単価」「利益=売上-費用」「ヒト・モノ・カネ・情報」。→ 使う場面:問題の構造が既知の場合、提案書の骨格作り、スピードが求められる初期整理。
帰納的MECE:まずデータ・事実・ヒアリングを集め、そこから共通点を見つけてカテゴリを抽出する。→ 使う場面:未知の業界・新しい問題、顧客インタビューの整理、前例のない課題への対応。
使い分けのコツ:時間があれば帰納で深く、時間がなければ演繹で速く。プロは状況を読んで使い分ける。