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財務基礎
BS・PL・CFを読んで経営を語る

M&AのDD(デューデリジェンス)に必須。数字で企業の健康状態を語れるようになろう。

本を読む女性のイラスト
Chapter 01

なぜ財務を学ぶのか

Key Concept

財務3表 = 企業の「健康診断表」を読む技術
M&Aで企業を買収するとき、まず「この会社は本当に健全か・買う価値があるか」を財務数字で判断する(財務DD)。財務を読めないと会議でついていけず、提案の根拠も作れない。

📊 BS(貸借対照表)
「ある時点での財産・借金の状態」

決算日時点で「何を持っていて(資産)」「どこから資金を調達したか(負債+純資産)」を示す。財産のスナップショット。

💰 PL(損益計算書)
「一定期間の稼ぎと使い方」

1年間で「いくら売って(売上)」「いくら使って(費用)」「いくら儲けたか(利益)」を示す。会社の成績表。

💸 CF(キャッシュフロー)
「現金がどう動いたか」

1年間で「現金がいくら入ってきて・出ていったか」を示す。PLの利益と現金は別物。黒字倒産を見抜く鍵。

📚
参考文献・出典
  • 金融庁「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(財規)― 財務諸表の法的定義・様式の根拠
  • 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準」― 日本の財務諸表作成基準
  • 國貞克則『財務3表一体理解法』朝日新書(2007年)― 財務未経験者向けの定番入門書
Chapter 02

BS(貸借対照表)の読み方

BSは「左側(資産)= 右側(負債+純資産)」が必ず一致する。だから Balance Sheet。

【左側】資産(Assets)
流動資産(現金・売掛金)5,000万
固定資産(建物・機械)8,000万
資産合計1.3億

「会社が持っているもの」

【右上】負債(Liabilities)
流動負債3,000万
固定負債4,000万

「他人から借りたお金」

【右下】純資産(Net Assets)
資本金・利益剰余金6,000万

「自己資本(自分のお金)」

⚠️ M&Aで最重要チェックポイント:負債の中身 買収すると負債も引き継ぐ。「隠れた負債(未払残業代・訴訟リスク・保証債務)」がないかDDで徹底確認する。これを見落とすと買収後に大きな損失が発生する。
Chapter 03

PL(損益計算書)の読み方

損益計算書の構造(簡易版)

売上高(Revenue)1億円
▲ 売上原価(仕入れ・製造コスト)▲6,000万
= 売上総利益(粗利)4,000万
▲ 販管費(人件費・広告費など)▲2,500万
= 営業利益(本業の稼ぎ)★最重要1,500万
± 営業外損益(利息・為替)▲200万
▲ 法人税等▲400万
= 当期純利益(最終利益)900万
M&Aで注目する「EBITDA(イービットダー)」 EBITDA = 営業利益 + 減価償却費。企業の「実力ベースの稼ぐ力」を示す最重要指標。M&A総合研究所調査によると、中小企業M&Aでは「EBITDAの5〜8倍」が相場とされる。
Chapter 04

CF(キャッシュフロー)の読み方

PLで利益が出ていても手元に現金がなければ倒産する(黒字倒産)。CFは「実際の現金の動き」を示す。

営業CF(本業の現金)

本業から生まれる現金。プラスが理想。「本業で稼げているか」の最重要指標。

投資CF(設備投資)

機械・工場・M&Aへの投資。通常マイナス。大きなマイナスは積極投資の証。

財務CF(借入・返済)

借入・返済・株式発行。プラス=借入増。健全企業はマイナス(返済中)。

📚
参考文献・出典
  • M&A総合研究所「中小企業M&Aの実態調査」(2023年)― EBITDAバリュエーション倍率の相場データ
  • 中小企業庁「中小企業の事業承継に関する調査」(2022年)― 後継者不在企業の財務状況に関するデータ
Chapter 05

M&Aで使う主要分析指標

粗利率(売上総利益率)

粗利 ÷ 売上高 × 100

本業の稼ぐ力。30%以上が一般的に良好(業種により異なる)。

営業利益率

営業利益 ÷ 売上高 × 100

販管費込みの本業収益力。製造業5%・サービス業10%が目安(出典:中小企業庁)。

自己資本比率

純資産 ÷ 総資産 × 100

財務健全性。40%以上が優良。低いほど借金依存で倒産リスク高。

有利子負債倍率(Debt/EBITDA)

有利子負債 ÷ EBITDA

借金返済能力。3倍以下が健全。10倍超は過剰債務の警戒域。

EV/EBITDA倍率

企業価値(EV) ÷ EBITDA

M&Aの買収価格の目安。中小企業では5〜8倍が多い。低いほど割安。

流動比率

流動資産 ÷ 流動負債 × 100

短期の支払い能力。200%以上が理想。100%を下回ると危険シグナル。

Chapter 07

企業価値評価の3手法

「この会社をいくらで買うか」を決める方法論

Key Concept

企業価値評価(バリュエーション)= M&Aの値付けの根拠
「直感や相場感」ではなく、財務データに基づいて論理的に算定する。3つの手法を知り、場面に応じて使い分ける。

① 純資産法(簿価法)

企業価値 ≒ BS上の純資産額

特徴:計算が最も簡単。資産を時価に修正した「修正純資産法」もある。
欠点:将来の稼ぐ力(収益力)が反映されない。
使用場面:清算・廃業時・会社の解散価値の下限算定

② 倍数法(マルチプル法)

企業価値 = EBITDA × 5〜8倍
(中小M&A相場。業種・成長性で変動)

特徴:市場での取引事例を元にした実績値ベース。実務で最もよく使われる。
欠点:業種・規模・時期の違いで倍率に幅がある。
使用場面:中小M&Aの価格交渉・相場感の確認

③ DCF法(割引キャッシュフロー法)

企業価値 = 将来FCFの現在価値の合計

特徴:理論的に最も正確。将来の稼ぐ力を今の価値に換算する。
欠点:将来予測の前提次第で結果が大きく変わる(「ゴミin・ゴミout」問題)。
使用場面:上場企業M&A・大型案件・投資判断

📌 DCF法の「現在価値」という考え方(基礎)

「今日の100万円」>「3年後の100万円」。なぜなら今日の100万円は3年間運用できるから。これを「貨幣の時間的価値」という。DCF法では将来のキャッシュフローを「割引率(WACC等)」で割り引いて現在価値に換算する。
例:毎年1,000万円のFCFが5年続く会社を割引率10%で評価 → 合計現在価値 ≒ 3,791万円

実務では3手法を「クロスチェック」として使う 倍数法で出た価格をDCF法で検証し、純資産法で下限を確認する。3つが近い値なら信頼性が高い。大きくズレる場合は「なぜズレるか」を分析することで企業の本質が見えてくる。
📚
参考文献・出典
  • M&A総合研究所「中小企業M&Aのバリュエーション実務」(2023年)― 倍数法の相場データ・業種別EBITDAマルチプルの根拠
  • Damodaran, A. "Investment Valuation" 3rd Ed. (2012, Wiley) ― DCF法の理論的基礎。NYUダモダラン教授の定番テキスト
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」(2020年)― 中小企業M&Aにおける価格決定の実務フロー
Chapter 08

財務DDチェックリスト

買収前に「絶対に見落としてはいけない」財務の確認項目

⚠️ 財務DDを怠ると「買ってから後悔」する M&Aで最も多い失敗の1つが「買収後に隠れた問題が発覚」。財務DDで見抜けなかったリスクは全て買収側が引き継ぐ。コンサルとして必ずチェックすべき項目を覚える。
📊 PLで見るべきポイント

売上の構造:特定顧客への依存度が高くないか(上位3社で50%超は要注意)
一時的な利益:資産売却益など「本業以外の利益」が混じっていないか
費用の中身:役員報酬が異常に高くないか(PMI後に減少する可能性)
売上の季節性:特定月に売上が集中していないか
⚠️ 赤信号:売上は増加しているのに利益率が下がっている

📋 BSで見るべきポイント

売掛金の回収期間:売上に比べて売掛金が急増していないか
在庫の回転率:不良在庫・陳腐化した在庫が積み上がっていないか
隠れた負債①:未払残業代・退職給付引当金の計上漏れ
隠れた負債②:保証債務・訴訟リスク・連帯保証
⚠️ 赤信号:固定資産が異常に多い(不稼働資産の可能性)

💸 CFで見るべきポイント

営業CFがプラスか:3期連続でマイナスなら本業での稼ぎがない
PLとCFの乖離:利益が出ているのに現金が減っていないか
借入への依存:財務CFのプラスが続く=借入で資金繰り
⚠️ 赤信号:営業CF < 0 かつ 財務CF > 0(借りながら経営)

🚨 粉飾・不正のサイン

🚨 循環取引:関連会社との取引で売上が水増しされていないか
🚨 在庫の急増:決算期末に在庫が不自然に増加
🚨 売掛金の急増:回収できない売上が計上されている可能性
🚨 監査法人交代:頻繁な交代は財務報告への不信のサイン
→ 見抜けない場合は外部の公認会計士を必ず活用する

📚
参考文献・出典
  • 日本公認会計士協会「財務デューデリジェンスの実務指針」― 財務DDの標準チェックリストの根拠
  • 中小企業庁「中小PMIガイドライン」(2022年)― PMI後に発覚する財務リスクの類型と対策
Chapter 09

まとめ

Summary

財務基礎 ― 3行まとめ

  • 財務3表:BS(財産の状態)・PL(稼ぎと費用)・CF(現金の動き)の3セットで企業を診断する
  • M&AのDDでは「PL→営業利益率・粗利率」「BS→自己資本比率・隠れ負債」「CF→営業CFのプラス」をチェック
  • EBITDA=企業の実力ベースの稼ぐ力。買収価格算定(EV/EBITDA倍率)の基礎数値

財務を数字で語れるようになろう

項目識別・計算問題・財務3表の繋がり・M&A文脈での財務分析まで20問。

財務基礎 練習問題を解く(20問)→